解説② :評価額は操作されている!

 前回は、北中城村が標準宅地を適切に選定しないことによって、「第4街区」の土地を過大に、かつ恣意的に評価し、不当に過大な固定資産税を徴収していると述べました。

 今回は、そのような評価が可能となるカラクリを解説します。

 要点は、固定資産税の「負担水準」が特定の数値になるように、土地の評価額にあらかじめ目標額が設定されているということです。

 まずはある年度の「負担水準」を特定の数値に定め、そこから逆算することによって、土地の評価額が目標額となるように決定しているのです。

 つまり、土地の客観的な価値とは何の関係も無く、自治体が勝手に目標評価額を決め、実際の評価額も目標額に沿って決定し、課税している。

 そして、本来は独立・客観的であるべき鑑定評価や路線価をも、目標額に合致するように自治体の都合の良いように操作しているのです。

 そんなことが、法治国家である日本の地方税制で本当に行えるのでしょうか?

 固定資産税額の決定における自治体の裁量権を拡大解釈した上で、おそらく村の立場からは裁量の範囲内で合法的に評価額や税額を決定しているつもりなのでしょう。たとえば、負担水準を一定にすることによって、評価替えの年度の急激な税額上昇を抑えている、という風に弁明をすることは可能です。しかし、その負担水準が本当に妥当かどうかについては、客観的な証拠(鑑定評価等)を欠いていて、これを評価額決定の根拠にすることは固定資産評価基準に定められていませんから、法を逸脱しています。また、評価替えの年度の急激な税額上昇が抑えられて納税者の目はごまかしやすくなるかもしれませんが、次年度以降の税額の上昇幅は最大化され、結局は不合理なまでに(経済状況や相場に合わず、周辺土地との均衡も取れないほどに)税額が上昇し続けることになります。以下で具体的に見ていきます。

なんで土地の値段が2年連続で3.0倍になるの?そんな偶然あるの? 

 このサイトで問題にしているのは、令和3年に土地の評価額が3.0倍に急激に上昇したことです。

 ところが、実はその前年、令和2年にも土地の評価額は3.0倍に上昇しているのです。

 合計すると、3.0 × 3.0 = 9.0 倍に土地の値段は上がっているのです。

 令和2年に関しては、区画整理後の地目の変更があり、また標準宅地も選定されておらず、また元の雑種地(軍用地)の評価額が低かったこともあり、負担水準等を考慮しても、3.0倍に上がったのは妥当と考えられます。

 しかし、令和3年に、2年連続で正確に3.0倍に土地の価値が上がるという偶然があるでしょうか? しかも、令和3年からは、標準宅地に対して不動産鑑定士が客観的に鑑定評価を行っているのに、前年とまったく同じ3.0倍に土地の価値が上昇することは、よほどの偶然が無い限り、あり得ません。宝くじが当たるような確率でしょう。つまり、2年連続で同じ倍率で土地の評価額が上昇したということは、評価額の決定において、何らかの意図的な操作が行われたことを強く指し示すのです。

 ここで、「負担水準」に着目します。

 下記の総務省のHPに固定資産税の負担水準についての解説があります。

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/149767_08.html

 そこには「平成9年度の評価替え以降、課税の公平の観点から、地域や土地によりばらつきのある負担水準(今年度の評価額に対する前年度課税標準額の割合)を均衡化させることを重視した、新たな税負担の調整措置が講じられ、負担水準の高い土地は税負担を引き下げ又は据え置き、負担水準の低い土地はなだらかに税負担を上昇させることによって負担水準のばらつきの幅を狭めていく仕組みが導入されています。なお、商業地等の宅地(住宅用地以外の宅地)については、負担水準が60~70%にある場合には、前年度の課税標準額に据え置かれます。」とあります。

 負担水準(%) = 前年度の課税標準額 ÷ 今年度の評価額

 初めて見る方は何のことか分からないかもしれませんが、要は、急激に土地の価値が上昇したり低下したりした場合であっても、実際の税額が急激に上がったり下がったりしないよう(なだらかに上下するよう)、負担を調整しましょう、そのための「負担水準」です。

 ライカムのような区画整理後の土地の場合は、急激に土地の価値が上がるケースに相当します。

 軍用地だったころは、雑種地といって、山林や原野が入り混じった未整備な土地として課税されていたので、それなりに評価額が低かったわけです。特に北中城村においては、軍用地の固定資産評価額は抑制的に評価されていたようです。

 しかし、軍用地が返還されて、区画整理が終わると、道路等も整然と整備され、「雑種地」から「宅地」となって、そのぶん、土地の価値も上がります。これが、令和2年の3.0倍の評価額上昇の部分です。

 このとき、負担水準は、雑種地のときは61%だったのが、宅地になって20%に下がりました。というより、負担水準が20%になるように、上の評価額が決められたと言えるでしょう。つまり、

負担水準20% = 令和元年の課税標準額5,255円/㎡ ÷ 令和2年の評価額 x

 逆算により、

令和2年の評価額 x = 25,900 円/㎡

 となるわけです。(端数は処理しています)

 このあたりから分かりにくくなるので、下の表を参照してみましょう。表の中の数値については、令和4年までの部分は評価額や課税標準額、税額などは実際の数値です(ただし、上記総務省HPにあるように、コロナ禍での経済状況を受けた特例より、令和3年は課税標準額が据え置かれ、令和4年は、課税標準額の上昇幅が評価額×2.5%(通常は5%)に低減されています)。令和5年以降については、令和6年を含め3年ごとの評価替えでも評価額の上昇がないものとしてシミュレーションをしています。

表1:固定資産税の推移
(デスクトップで小さくて見づらい場合は右クリックで別タブで画像を開いてください)

    

 

 令和和2年の段階では、雑種地から宅地への地目の変更があり、区画整理に伴う評価額変更でした。当時すでに街が発展していた状況から見ればこれでも評価額が低すぎるわけですから、評価額の求め方に問題はありそうでも、評価額が高すぎると異議が唱えられることはないでしょう。

 ただ、この評価額の求め方において、計算の根拠となる「負担水準」を意図的に20%にするということは、前年までの負担水準が61.5%とされていたことからすると、必然的に評価額が3.0倍になるのです。(端数を考慮しても3.0倍になります)

 以下で算数の計算によって示します。

 令和元年負担水準61.5% → 令和2年に1/3の20%になる → 令和2年評価額は3.0倍になる

 なぜなら、

 令和元年負担水準 : 令和2年負担水準 

= 61.5% : 20.3%

=   3   :  1

 ここで、負担水準=前年課税標準額÷当年評価額 を代入し、

 平成30年課税標準額÷令和元年評価額 : 【令和元年課税標準額÷令和2年評価額 

=  3  :  1

つまり

 平成30年課税標準額÷令和元年評価額×1

令和元年課税標準額÷令和2年評価額×3

つまり

  令和2年評価額÷令和元年評価額 

= 令和元年課税標準額÷平成30年課税標準額 ×3 

 ここで、令和元年課税標準額と平成30年課税標準額は等しい(評価額の61.5%で据え置かれている)ので、

 令和2年評価額÷令和元年評価額 = 3

 つまり令和2年評価額は、令和元年評価額の3.0倍になるのです。

 令和2年に村が負担水準を20%とした理由

 では、令和2年に村が負担水準を20%と決めた理由はなんでしょうか。

 これには、表1において当該年度課税標準額/当該年度評価額(%)が、令和元年に61.5%だったのが、令和2年に60.0%ちょうどになっていることとも関係します。 

 上記の総務省のHPにはこうあります。

 前年度課税標準額+評価額×5%=[A]  とする。

 前年度の課税標準が評価額の60%未満で、[A]が評価額×60%を超える場合は評価額×60%とする。

 つまり、前年よりも、いきなり評価額が大幅に上がったり、あるいは徐々に上がった場合でも、課税標準の天井は「評価額×60%」で打ち止めであって、それ以上は上がりませんよ、という規定です。また、以下の規定もあります。

 [A]が 評価額 × 20%を下回る場合は、課税標準額を評価額 × 20%に引上げる。

 [A]が評価額の20%を大きく下回る(たとえば10%)ほどに今年の評価額が上昇した場合、前年度の課税標準額を元にした[A]円は、今年の高額の評価額に見合わないような、かなりの少額になってしまいます。そこで、課税標準額を少なくとも、評価額の20%までは引き上げてよい、というのが上の規定です。評価額の急上昇に伴いいきなり税額は上がってしまいますが、20%という低率なので、最低限の課税標準額として許容されるという考え方でしょう。

 令和2年においては、雑種地から宅地への地目変更に伴い、課税標準額は、(前年まで雑種地でも61.5%に達していたことも踏まえ)上限の60%になるように設定されました。これにより、税額は、地目の変更後、評価額に対する税額としては最大となります。

 また、[A]については、負担水準とは異なるものですが、「評価額×5%」を除けば、ほぼ負担水準に近い数値になります。言い方を変えれば、負担水準が20%の大台に乗っておけば、[A]については評価額の20%+5%程度、つまり評価額の25%を見込むことになります。実際に表1でも、令和2年度の[A]は評価額の25.3%となっています。

 課税標準額の最低値は評価額×20%ですが、もし実際にこの下限規定のぎりぎりになるように、[A]が評価額の20%になるようにすると、現在の25.3%からは5.3%しか変わりませんが、実際の評価額は3倍どころでなく4倍、税額も前年の3倍ではなく4倍になるので、大きな差になります。つまり、税の急激な負担感がより増すことになります。後述の令和3年の目標評価額(令和元年比で9.0倍)との兼ね合いから、ここで4倍にするよりも、3倍にとどめておいたほうが、負担感は少ないでしょう。

 以上のように見てくると、令和2年に負担水準を20%とした理由は、下記のような点が考えられます。

・課税標準額の評価額に対する割合を宅地としての上限の60%とする

・[A](前年の課税標準額+評価額×5%)が、評価額の20%という下限規定を超えること(実際には25.3%とされた)

・区画整理後の税額として、前年の3倍程度までなら許容される

・後述のように、令和3年に評価額をさらに3倍に上昇させることも考慮

・負担水準が61.5%から20.3%に3分の1になるよう、すなわち、評価額が3倍になることまでは許容される

・その他、区画整理の前後の評価の規定、判例からの許容範囲等の資料

 これらを考慮して、令和2年の負担水準を20%、すなわち、評価額を前年の3.0倍に決定したものと考えられます。

 では、令和3年についてはどうでしょうか。 

 令和3年の負担水準20%は根拠があるのか?

 では、令和3年の負担水準はどうでしょうか。令和3年の負担水準は、令和2年と同じ20%となっています。

 すなわち、上記の負担水準からの逆算の算数により、評価額は再度3.0倍になります。

 これらは、むしろ、令和2年の時点で、令和3年の評価額の引き上げまで見越して、令和2年、令和3年の評価額の引き上げが合計9.0倍となるように、意図していたことを強く示唆しています。

 なぜなら、2年連続で3.0倍に評価額が上昇するには、あらかじめ目標額を設定しない限り、偶然によってはあり得ないからです。

 令和2年の時点で3倍までに評価が引き上げられたこと、その額自体にはおそらく異議は出ないだろうと述べました。しかし、令和3年まで見るとどうでしょうか?区画整理前からの比較で評価額が9.0倍という目標評価額を設定して、はたしてそれが経済状況や、不動産市場の相場、これらまで勘案した上で、客観的な交換価値として適正でしょうか?

 令和3年の評価替えを経て、前年の3.0倍、区画整理前の9.0倍にあらかじめ目標を定めて評価額を引き上げることは、実際の相場から大きく逸脱していると考えられます。

 そもそも、このように目標評価額を決めて評価額を上昇させることは、地方税法と固定資産評価基準に何ら定められていない評価法であり、そもそも違法です。

 では、令和3年の負担水準20%、評価額3.0倍がどのように異常でありかつ違法であるかを具体的に見ていきます。

表2:固定資産税の推移、令和3年以降を強調
(デスクトップで表示が小さい場合、右クリックで別タブで画像を表示してください)

 上記の表のように、およそ常識ではあり得ないような税の上昇が見込まれます。

 「常識ではあり得ない」とは、土地の収益の3~4割が取られるようになることが、早くも9年後に想定されているということです。

 しかも、これは、土地の評価額が令和6年以降、上昇しないという楽観的な見通しにおいてです。実際には令和6年以降も村は評価額を上昇させるでしょう。このままでは、税額は表2よりもさらに上がることが予想されます。

 これが果たして経済状況に照らして正しい評価でしょうか?土地の地価が上がろうとも、土地から得られる収益が上昇する経済状況ではありません。まして、第4街区の土地については、売買されるとしても、イオンモールからの賃料収益から利回りが計算されて市場での価格が決定するはずですから、売買価格自体が今後、税額と同じように上昇するはずがありません。したがって、このままでは、土地から得られる収入のなんと3~4割が固定資産税で取られるという、異常な事態になるのです。

 村があらかじめ、何ら相場感なく評価額を決定したせいで、このような異常が生じています。

 しかも、その評価額の決定法は、法を逸脱した操作によって実行されているのです。次回以降では、法と照らし合わせて、その違法なカラクリを見ていきます。

 

解説①:18万㎡に標準宅地がゼロ!

 令和3年4月、北中城村は、アワセ土地区画整理地区内の固定資産税評価額を決定しました。区画整理の完了後、街路が整備されて土地の利便性が高まり土地の実質的な価値が高まった後としては、初めて評価額が改定された年度でした(3年ごとの評価替え)。

 このとき、区画整理で土地が便利になった分、利用価値が高まって固定資産税評価額の単価(〇円/㎡)が高くなるのは当然です。

 ただ注意したいのは、元々の土地の所有者からすると、たとえば40%程度(土地によってはそれ以上)の減歩(げんぶ)がされて区画整理で所有地の面積が減っているので、土地の単価が上がったからといって、財産の価値が増えるわけではありません。減歩、つまり道路や歩道等に土地を提供して区画整理に協力したわけです。

 言い換えると、土地の所有者にとっては、区画整理に土地を提供した分、利便性の上昇を反映して土地の単価が上昇してもらわないと困る、とも言えます。実際、区画整理事業では、区画整理の前と後で、各土地の土地ごとの評価額はトントンになるよう、減歩があっても土地の価値の上昇によって財産の価値としては落ちないよう、所有者の損害にならないよう、区画整理事業組合がちゃんと計算して区画整理(換地)を行っています。

 ですから、区画整理の後に、土地評価額の単価(〇円/㎡)が上がるのは、当然というか、所有者にとっては、減歩されているんだから上がらないと困るわけです。

 ところが。

 北中城村ライカムでは、令和3年度の固定資産税評価額の見直しによって、上に書いたような土地の単価(〇円/㎡)の上昇にとどまらず、そもそも一筆の土地の評価額そのものが、令和3年度に3.0倍に上昇してしまいました。例えば、イオンモールライカムの敷地に200㎡の土地をもっていた場合、700万円だったのが2100万円になった、ということです。

 これは、所有者にとっては「財産が増えた」と喜べることでは、もちろん、ありません(手持ちのお金が増えたわけではありません)。逆に、「税金が増える!」と青ざめるような事態です。

 すこし横道にそれますが、固定資産税だけでなく相続税にも言及しておきます。固定資産税は税額自体は微々たるもので(税率が低い)、なおかつ、評価額が急激に上がっても、課税標準額が別に設定されることによって、税負担そのものは徐々にしか上昇しないよう調整されています。ところが、相続税は違います。特に、北中城村ライカムのように「評価倍率」で相続税評価額が決定する地域では、「固定資産税評価額 × 1.2倍= 相続税評価額」のように決まるので、固定資産税評価額が3倍になれば、同時に相続税評価額自体も3倍になるわけです。ということは、相続税を払わないといけない財産をお持ちの親御さんがいる場合、ライカムの土地の固定資産税評価額が3倍になって相続税も急上昇し「相続税が払えない!」という事態になって、泣く泣く土地を手放さないという事態も考えられます。これも深刻な問題なので、別の記事であらためて書いていきます。

 前置きが長くなりましたが、では、この3.0倍の固定資産税評価額の上昇の決定が、ちゃんと法律にのっとって行われた適正なものか、ということです。

 そうではありません。

 固定資産税評価額の決定のためには、固定資産評価基準に定められた方法によって、きちんと手順を遵守して評価されなければなりません。

 その手順の中に、適切に「標準宅地」を選定して、これに対して不動産鑑定士による客観的な鑑定評価を行う、という手順が含まれます。

 ところが、北中城村ライカムのイオンモールライカムの敷地である約180,000㎡の「第4街区」には、北中城村はなんとただの一つも「標準宅地」を選定していないのです。

 これは、驚くべきことです。この約180,000㎡、約380筆の土地については、不動産鑑定評価等は行われておらず、直接に客観的な時価の評価が行われないまま、土地に課税されているということです。

 ちなみに、北中城村には宅地が約186万㎡あり(平成29年)、標準宅地が50以上選定されているようですので、概算しても平均で約37,000㎡あたり1つの「標準宅地」が選定されています。それにもかかわらず、また特にライカムは市街地であるにもかかわらず、約180,000㎡の土地に1つも「標準宅地」が選定されていない、これは、あきらかに異常です。

 ライカムの「第4街区」と、他の市町村の市街地を比較して見てみます。

 まず、問題の「第4街区」は、下の図の緑のダイヤモンド型の地区です(5角形または、ゆがんだ四角形)。

(「地価マップ」固定資産税路線価図より北中城村ライカム)

 つぎに、同じ縮尺で那覇市おもろまちを見てみます。

(「地価マップ」、固定資産税路線価図より那覇市おもろまち)

 那覇市おもろまちでは、ライカム「第4街区」と同じくらいの面積の地域(薄緑色)に少なくとも3つの赤丸があり、これが「標準宅地」を示しています。それぞれに対して不動産鑑定士が鑑定評価を行い、その鑑定評価書が、適正な時価を評価するための客観的な資料となっています。ところが、ライカム「第4街区」には、この赤丸=標準宅地が一つもないのです。

 参考までに、やはり同じ縮尺で、那覇市の他の地域や、日本でも最も代表的な市街地として東京の2地点を、下に示してみます。

(「地価マップ」、固定資産税路線価図より那覇市泉崎)
(「地価マップ」、固定資産税路線価図より東京都の新宿駅付近)
(「地価マップ」、固定資産税路線価図より東京都の東京駅付近)

 同じ面積当たりであれば、より高度に市街化された地域により多くの「標準宅地」(赤丸)が選定される傾向があって当然のように思われますが、実際には、東京のような国内最高度に市街化された東京駅周辺の場合であっても、赤丸の数は那覇市泉崎と比べてもそこまで段違いに多いわけではありません。むしろ、新宿の方が多い印象です。これは、標準宅地を「状況類似地域」ごとに1つずつ選定しなければならないという、固定資産評価基準に定められた選定方法があるためです。ここで注目すべきは、街路の整備状況です。新宿のように街路が細かく交差している街は、同じ地区にあっても、たとえば街角を一つ曲がれば街路の良し悪し(例えば、一つ角を曲がるとゴミゴミとした汚い路地に入ってしまう、とか)等によって、土地の資産価値が大きく変わってくるということがあり得ます。これと比較し東京駅の西側には、一つの区画ごとに巨大なビルがまとまって立地しているので、あまり街路が入り乱れておらず、土地の資産価値は地域内でそれほど変化しないので、標準宅地の選定数も新宿ほどは多くないように思います。

 那覇市泉崎や那覇市おもろまちで、薄緑色に塗られている地域は、ライカムの薄緑色の地域と同じで、「普通商業地区」を表しています。同じように「普通商業地区」であっても、ライカムよりも那覇市の方が街路が多く整備されているので「状況類似地域」(普通商業地区内でも複数の状況類似地域に分かれています、地図上には表示されていません)が細かく区分され、したがって標準宅地の選定数も多い、というわけです。

 でも待ってください。いくら街路の数が少ないといっても、同じ普通商業地区であって、那覇市ではたくさんの標準宅地があるのに、ライカムでは広大な第4街区に標準宅地がゼロ?こんなことで本当に評価ができるのでしょうか?

 これには若干のトリックがあります。実はライカムにも標準宅地は少ないながらも存在するのです。下の地図を見てください。

(「地価マップ」、固定資産税路線価図より北中城村ライカム)

 地図を縮小して地域をより広く見ると、ダイヤモンド型の「第4街区」と道路(県道85号)を隔てた北側の区画に、赤丸が一つだけあることが分かります。これが、この広大な「普通商業地区」(薄緑色)全体における、唯一の「標準宅地」です。

 この薄緑色の普通商業地区ですが、街路の数自体が少ないのだから標準宅地が一つしかなくても、別におかしくないのではないか、と言われるかもしれません。ところが実際にはそうではありません。那覇市や東京の例で分かるように、たとえ同じ普通商業地区内であっても、街路を一つ隔てただけで土地の利用状況が相当に変わることが多々あり、状況が相当に変わるときは、「状況類似地域」を2つ以上に分けないと、土地の評価を誤ってしまうのです。

 現在のライカムの普通商業地区内の唯一の標準宅地には「91700」と記されています。これは、不動産鑑定士によってこの土地の適正な時価(固定資産税評価額)が「91,700円/㎡」と評価されたことを意味しています(実際には7割評価等にも言及しないといけませんがここでは省きます)。この標準宅地は、ここに建っている病院敷地全体を占める約23,500㎡の土地です。上の地図上では、右向きの紡錘形のような区画(青でなぞられた街路に囲まれた区画)全体です。アワセ土地区画整理では「第2街区」に当たります。この土地に対して客観的な鑑定評価がなされて、最終的にこの土地の固定資産税評価額が91,700円/㎡となり、これに従い、接している街路の路線価も91,700円と定められました。そして、この路線価が、同様の周辺路線価と調整されながら、各街路ごとに細かく定められていき、土地の評価に用いられます。

 ということは。

 独自に標準宅地を有しない「第4街区」は、大きな道路(県道85号)を隔てた北側の「第2街区」の標準宅地の評価額と、それに基づく路線価、これらによって、評価されているということになります。

 つまり、「第4街区」は、街区の「外」の標準宅地を基準にして評価額が決まっているということです。

 このような評価の仕方をすると、税金を徴収する側にとって、都合のよいことが一つあります。本当は(もし客観的な不動産鑑定評価を行った場合には)「第4街区」の土地にそれほどの価値がない場合であっても、道を隔てた「第2街区」の標準宅地の価格さえ上がれば、それに連動して広大な「第4街区」の評価額も上昇させることが可能になる、ということです。これにより、より広大な土地である「第4街区」から過大な固定資産税が徴収可能になっていきます。

 そんな不正のようなことが、本当に北中城村によって行われているのか? 行われている、つまり瑕疵(欠陥)のある評価法によって「第4街区」の土地が不当に高額に評価されている、というのが本会の主張です。

 いったい、どのようなトリックでそのように過大な固定資産税評価額の決定や、過大な固定資産税の徴収が可能になるのでしょうか?北中城村が意図的に行っているかどうかは別として(間違いなく意図的だと本会ではにらんでいますが)、いくつかの評価手順を省いたり、評価基準をねじまげて解釈したり、あたかも法律の網目をすり抜けるようにして、行政によって独善的かつ、納税者の不利益を何も考えないような評価法が取られているのです。

 詳細は、次回以降の記事で説明していきますが、まず今回の記事では、決定的な評価手順上の瑕疵(欠陥)である、以下の点を指摘しておきます。

 現在標準宅地のある地域(病院敷地である「第2街区」)と、イオンモールライカムの敷地である「第4街区」とでは、土地の状況が相当に異なるのに、それぞれの街区に標準宅地を別々に選定せずに、「第4街区」に標準宅地を選定していないのは、明らかに固定資産評価基準(と地方税法)から逸脱しており、違法だということです。

 補足して言うと、標準宅地の選定が適切に行われていないということは、固定資産評価基準に定められた「市街地宅地評価法」という評価方法が、正しく運用されていないということです。「市街地宅地評価法」に定められた「状況類似地域」ごとの「標準宅地の選定」が行われていない。つまり令和3年に初めてこの「市街地宅地評価法」がこの地域に適用された際に、正規の手順が踏まれず、明らかに欠陥のある評価法によって固定資産税評価額が決定されたということです。

 なぜこのようなことになったのでしょうか?標準宅地の選定さえ省いてしまえば、そして自治体の裁量の範囲でそれが認められるという解釈が成り立てば、最大限の税収を得たいという北中城村の目的は達成されるので、そのような意図が働いたというのが本会の印象です。ただ、「そんな意図はなかった」と反論することはいくらでも可能なので、これはあくまで本会の主観的な推定でしかありません。問題は、現在の固定資産税評価額の決定方法、評価方法が法的に問題があるかどうかです。本会では、法的な問題が大いにある、と考えていますので、今後次々に問題点を指摘していきますが、もっとも決定的かつ違法な点は、標準宅地の選定が適切になされていないということです。これによって、客観的な不動産鑑定評価の無いまま、北中城村の恣意的な(思うがままの)過大な課税が可能になってしまった、ということが問題なのです。

 次回では、現在の一つしかない標準宅地の評価額が、どうして「第4街区」の評価額を不当に釣り上げる原因になっているか、について、実際に村から開示を得た不動産鑑定書や画地情報等をもとにして説明していきます。